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持たないものを与えること


インタビュアー:コルネリア・ゾルフランク

マルセル・マース《パブリック・ライブラリー》

2013年2月1日ベルリン


[00:13]パブリック・ライブラリーは、人々が司書になるのを後押しするというコンセプトです。ここでいう司書とは本を紹介してくれる存在で、個々に本の目録を持ち、検索できます。そして司書も1人の読者として、目録に興味を持った他の人とコミュニケートできる場です。司書が大勢いる場所がパブリック・ライブラリーです。本が読めて、目録があり、司書がいる。これが基本的な仕組みなんです。そして実際にうまく機能させるためには、簡単に利用できるツールが必要です。本を管理する Calibre とかです。そしてこの基本ツールもまた更新する必要があります。ルーターの設定やIPアドレスなんかの改良です。自分のパソコン上にある書籍をシェアするのは簡単ではありません。だから僕らは―“僕ら”とはプロジェクトの開発者たちのことです。パブリック・ライブラリー(公共の図書館)は既に存在してましたが、存続させることが大事でした。古い図書館は様々な理由で衰退していました。そして電子書籍が登場すると、最悪といっていい状況に追いやられたのです。例えば アメリカの公共図書館はペンギンブックスの電子書籍を買うことができません。買いたくても手に入れられないんです。許可されてないからです。今の法規制では違法だとされていて、 100 万かそれ以上の本の入手が不可能なんです。こういった本も利用可能にするべきです。本が電子化された経緯は関係ありません。デザイナーが印刷用に作った本でもです。最近ではよくあることですが、著者が直接アップロードした本かもしれません。誰かが電子化したのかも。それが本である限り、区別されずに蔵書に加えられるべきです。現在起きている状況はまるで売春婦を探すようなものです。オンラインで本が欲しい時はカジノの宣伝が載ってるようなサイトに行く必要があります。図書館の好ましい形ではありません。


[03:18]書籍管理

僕らがしようとしているのは書籍管理のソフトの提案です。新たにインストールできるソフトの紹介もします。メタデータの複雑なディレクトリを簡単に入手するソフトです。 Calibre を使えばそれができます。そしたら自分のパソコン上の本をシェアできます。使える管理ソフトウェアとは、著者と題名、出版者のようなメタデータが見やすいものです。そして外部からもアクセス可能なものです。


[04:08]Calibre

Calibre は書籍管理ソフトです。コビッド・ゴイアルが開発しました。これはフリーでオープ


ンソースのソフトウェアです。他のフリーソフトウェアと同様、限定的な細かい用途のためのツールでした。これが便利だったためユーザーが増えていきました。そこでコビッドが書籍管理のソフトとして開発し直したんです。今では1000 万人以上の登録ユーザーがいます。本の管理のために様々なことをします。そのためのソフトウェアなんです。電子書籍リーダーを持っていたら Calibre がそれを認識し、本の移動が簡単になります。もちろん何年もの間フォーマットの大きな問題がありました。アマゾンは専売を維持するためEPUBやP

DFをサポートしませんでした。だからどこか他の場所で、買ったり手に入れた本は Kindleでは読めません。Calibre は変換ツールとして開発されました。そこに他の機能もつけて電子書籍管理ツールになったんです。Calibre はウェブサーバーを持っています。だからネット環境があればサーバーに接続して自分のライブラリーや本の検索をかけることができます。どんなメタデータでも使えるんです。


[06:05]Calibre の周辺ツール

Let's Share Books は僕が開発したソフトです。クリックするだけで自分の本をネット上でシェアできるという機能です。自分のURL があるんです。“www 自分の番号 memoryoftheworld.net”とか。このURLを世界中の誰にでも送れます。自分のサーバーを立ち上げ本をシェアしたらソフトがその本をネットに上げるんです。そこにウェブチャット機能もつけました。意見を交換できる部屋みたいなものです。こういったツールを開発しようとしました。Calibre の周辺機能としてです。主に個々のユーザー、個々の司書向けの機能です。彼らがリーダーを介してや、実際に出会えるようなエコシステム作りをサポートします。そこでシェアした本や好きな本について話すんです。本を取り巻くソーシャル・ネットワークみたいなものです。このアイデアと従来の図書館を融合したんです。まずサーバーを立ち上げる必要がありました。ルーティングだけするサーバーです。どの本がやり取りされたか、そこではわかりません。ルーターの役割をするだけなんです。ルーターの管理ができれば本のやり取りはできます。もしくはモデムのようなネットに接続するデバイスのね。でもこれはハックが難しくハッカーにしかできません。だからネット上に使えるサーバーを作ったんです。クリック1つするだけで最適な経路を決定してくれます。自分からユーザーへ、読者への経路です。とても簡単です。


[08:33]司書

司書になるのは簡単です。そしてこれは喜ばしいことでもあります。自分の好きな本を紹介したいと思う人たちはこのサイトのユーザー以外にも大勢います。誰もが司書みたいに、好きな本を勧めたいんです。あなたが僕に好きな本を勧めて、僕もあなたに好きな本を勧められますよね。誰だって司書になれるんです。さまざまな分野を網羅するにはもちろんプロの司書も必要です。だけどソフトウェア・エンジニアとの共同作業と、情報アーキテクチャーも関わってきます。司書になるのはとても簡単です。それにその利点も大きいので誰もが司


書にならない理由はありません。


[09:38]機能

本をシェアしたいならCalibre をインストールします。Let's Share Books のソフトもです。僕が開発しました。でもその他にも Calibre には AAAAARG のプラグインもあります。だから Calibre をインストールすれば AAAAARG から本をダウンロードできます。AAAAARG のメタデータを変更することもできます。


[10:13]レポジトリ

本がダウンロードできて目録が作れる最大のレポジトリはライブラリー・ジェネシスで、90万冊の蔵書があります。libgen.io だったかな。ロシア人のハッカーが作った、いいプロジェクトです。誰でも無制限に9テラバイト分の本がダウンロードできます。巨大なハードディスクがいくつも必要です。PHPもダウンロードできます。MySQLデータベースもダウンロードできるので、自分のライブラリーが作れます。これは1つの例で AAAAARG を使ってもいいです。ここでも本のダウンロードとアップロードができます。トピックや目録を作って、意見や解釈を交換します。本好きの人のコミュニティーなんです。知識を共有するのが好きで、共有することで本の価値を見いだす人たちです。それに Calibre も使えます。 Let's Share Books も無料で使えるツールの1つです。だから Calibre や Let's Share Books以外にも本を共有するサイトはあります。


[11:45]目的

僕たちがやってることは、パブリック・ライブラリー(皆の図書館)のための闘いです。僕らが知ってる多くの人や著者でさえも、みんなここに参加しています。“パブリック・ライブラリー”的な流れにです。そうは呼ばれていないし、みんな隠れて使ってますけどね。体制の圧力を恐れるからです。この偉大なアイデアを声高に叫ぶべきですよ。膨大な資料にアクセスできるんです。僕らがしようとしてるのは、これらのプロジェクトのマップを作り推進することです。パブリック・ライブラリーを目指す形にするためには、メタデータを改良しなければなりません。アーロン・スワーツのオープン・ライブラリーは 2000 万冊の蔵書があり、僕らはそれを使いました。basedata.org でオープン・ライブラリーのIDでハッシュ値がわかります。オープン・ライブラリーに貢献しようとしてるんです。僕らは5人くらいのとても少ない人数で、オープン・ライブラリーを改良できるんです。パブリック・ライブラリーのユーザーは 10 億人です。また僕らには数百万人もの司書がいるんです。以前はなかったことでそこが特徴です。続けることが目的です。もし僕らが今の状況を台なしにしたりしなければ、新しいソフトを加えることになるでしょう。本を読む新しいツールです。でも今のところ大事なのは存続させることです。このインフラをですよ。知識にアクセスできる重要なインフラが脅かされているからです。



[14:09]著作権

著作権の問題は完全に的外れだと思います。パブリック・ライブラリーに著作権法は当ては まりません。他のケースは知りませんが、この件に関しては完全に該当しません。僕らが探 し求めている道は、知識の共有に重きを置く人々を賞賛する方法なんです。まずは著者です。それに公共の図書館に関わる司書たちも挙げられます。ソフト技術者も。このエコシステム に関わるすべての人は賞賛されてしかるべきなんです。これはすばらしいことで社会に貢 献することです。だからこの件に関する法が、この分野の発展を妨げるなら間違っているの は法の方です。法律は厳しくなる一方で改善を待ってますが、待てば状況は悪化します。法 は気にしません。きっと僕はアーティストだからこう言えるんです。著作権保護法は芸術の 保護や芸術家の利益の保護を唱えて制定されています。僕は芸術家だけど、法は僕の利益を 守りません。芸術家の利益は自分たちで守っていけばいいと思います。芸術家の中で意見が 割れたら議論をすればいいんです。


[15:58]"市民としての反抗”

“市民としての反抗”は個人だけではなく団体でもなされます。パブリック・ライブラリーという団体はそのいい例です。僕がパブリック・ライブラリーでやったことは賢いやり方ではありません。ただこの大きな問題をわかりやすく提示したんです。パブリック・ライブラリーの理念は、誰でも理解できます。誰かにこう言ってみましょう。“図書館がなくなる”“貧しい人のための本がなくなるんだ”とね。世界で起こっているこうした状況をみんな諦めて受け入れてしまっています。僕が関心を持っているのは、こうした問題に対して団体として何ができるかということです。僕はシュロス・ソリチュードに関わり、パブリック・ライブラリーのサーバー作りを提案しました。うまくいけば蔵書 100 万冊。大きな図書館になります。尻込みする人もいますが、人々が勇敢でなければシステムは変えられないんです。誰にもわからないことや、専門知識が必要なことを人々にやるようにと言っているわけではありません。これは大きな問題です。トランスメディアーレや他の芸術団体が賛同を示し協力してくれるかがカギです。そしたらかなりの力になって物事を動かせるでしょう。僕がとても関心を持っている別の問題はインフラに関することです。こういう前衛的な団体を動かすのにはどういうインフラが必要なんでしょう。こういう問題を提起していきたいです。


[18:17]アート・プロジェクト

パブリック・ライブラリーはアート・プロジェクトです。法的な立場では会社や法人と同じだと言ってもいいでしょう。いろいろな側面でゴタついていて、説明義務もあまり果たせません。会社が法的立場を利用するなら、市民としての反抗にアートだって使えるんです。僕はスロベニアのHAIPフェスティバルにキュレーターとして招かれました。知識へのアクセスを共有するというテーマはその時出たアイデアで、みんなが夢中になりました。この


アイデアは賞賛され、反対する人はほとんどいませんでした。フェスティバルと同時に展覧会が開かれていました。ディア・アートといってWHWという団体が主催した展覧会です。とても実力のある主催者です。僕のアイデアはすぐに展示作品になりました。トランスメディアーレやその他にも招待されました。これはアートの団体がこのアイデアを実行する、素地があるということなんでしょう。こういった種類のプロジェクトは受け入れられることが大事なんだと思います。受け入れられることで、アート界全体の問題へと発展していくんです。僕はこの方法でプロジェクトを進めています。パブリック・ライブラリーを展覧会に招待する主催者がいる。つまり彼らはこの問題に取り組む準備ができてるんです。多くの展覧会やアート・フェスティバルがこの“市民としての反抗”を支持しているんです。この意味するものは大きいですよ。こういった素地が闘争へと向かっていくんです。だからもう意見交換だけの段階ではありません。“それはいい、よくない”と言うだけのね。“複雑な問題だな…”とかね。このプロジェクトは複雑ではありません。複雑さは別の段階で取り組めばいいんです。このプロジェクトは洗練された芸術作品です。パブリック・ライブラリーを立ち上げるためなら僕は進んで責任を負いますよ。この芸術作品を消滅させてはいけません。消滅するはずがないんです。こんなシンプルなコンセプトなんですから。このアイデアが発表されたのは 2013 年でした。だが誰に向かって?このプロジェクトはダミーを演じてきました。僕もダミーを演じました。なぜ?僕らはスロベニアでソフト開発者を演じました。資料の使い方について、案をたくさん考えました。明確なツールのビジョンは数時間後にはできていたんです。それはウィキペディアのリーダーですよ。どのページの参照も出典も読み込むことができるんです。パブリック・ライブラリーの資料が、いかに膨大かがそこにいた人も外部の人もすぐにハッキリわかりました。そして実現しないことの愚かさもです。それなのに、いまだに僕らは芸術家というダミーを演じているんです。


字幕制作:東京都写真美術館 第9回恵比寿映像祭

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