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持たないものを与えること


インタビュアー:コルネリア・ゾルフランク

ケネス・ゴールドスミス《アーカイヴの芸術性》

2013年2月1日ベルリン


[00:12]UbuWeb は私の執筆スタイルと同じです。新たなものを作る必要はない、という理念に基づいています。つまり既存のマテリアルを集め、流用することが執筆とアーカイヴの新たな方法なのです。つまり作文もアーカイヴも同じ意味を持つということです。


[00:43]UbuWeb

1996 年に開設した当初は具体詩を紹介するサイトでした。当時は 1950 年代辺りのタイポグラフィック詩を載せていました。具体詩を自分でスキャンして UbuWeb に公開したのです。受信時にインターレース状に画像が現れる様子は、まるで詩に生命があり成長しているようでした。あれこそ具体詩にふさわしい姿でした。完ぺきだと思いました。平面的でモダニズム的な具体詩がコンピューター画面の明るさで美しくクリアに映し出される。これは具体詩を発表するには最適な媒体だと思いました。具体詩は UbuWeb の主要なコンテンツになりました。数年後に RealAudio が登場したので、容量の小さい音響詩のファイルを載せました。これで音響詩も楽しめるようになりました。更に数年後には 映像の配信もできるようになりました。こうして UbuWeb は成長したのです。面白いこともありましたよ。ジョン・ケージの詩をアップした時のことです。メソスティックス形式の詩でした。その詩に彼の朗読音声を加えてみたのです。するとオーケストラの音と共に朗読音が聞こえてきました。その時もはやこれは音響詩じゃないと思ったのです。なるほど。これが前衛芸術だとひらめきました。ケージとその試みをきっかけに UbuWeb は前衛芸術をアーカイヴする場になりました。具体詩の紹介から始めた UbuWeb が、前衛芸術を扱うようになったのです。


[03:09]前衛芸術

前衛芸術なんて 80 年代には言えませんでした。80 年代はポストモダンと修正主義の時代だったので、それは時代錯誤な言葉と見なされていました。でもデジタルの世界から何かが変わっていきました。前衛芸術という言葉から、従来の意味が消えていました。固定観念がなくなったのです。デジタル化により古いイメージは失われました。前衛芸術という言葉がまた使えるようになったのです。かつては使えなかった言葉が、マルチメディアの表現として、再び定義できる時代になったのです。そこで私もこの言葉の価値をもう一度見出すことにしました。前衛芸術の定義は常に変化します。UbuWeb のアーカイヴにも純粋な前衛芸術ではなく、違うと思う作品もあるでしょう。ロックミュージシャンや小説家の作品もあり


ますから。でも言葉の定義が変わったのです。デジタルがすべてを変えました。


[04:41]選択/キュレーション

私は歴史家でも研究者でもありませんから、前衛芸術を自分の感性で選んでいます。私にそんな資格はないと思うでしょうが、でも誰も止めないから今も続けているのです。他の人もやればいいのにね。作品は厳選して載せています。アーカイヴに適した作品を選ぶわけじゃありません。UbuWeb には作品の優劣を判断する管理者がいません。ネット文化の問題は判断を保留していることです。すべての価値が等しく優劣をつけません。その発想は気に入っています。それがカオスを生むのです。そのカオスに意味づけするのが、キュレーターの役割です。それは UbuWeb の運営目的でもあるのです。それが前衛芸術です。これは大きなプロジェクトではありません。個人の見解を発表している、ささやかなサイトです。間違っているかもしれませんが、誰もやらないなら私がやりますよ。他に例を見ないサイトだから UbuWeb は成立しています。なんといっても UbuWeb がユニークな点は、著作権を無視していることです。誰もが著作権を気にしています。同様のサイトはもっと存在してもいいのに、著作権の侵害を恐れてみんな尻込みするのです。UbuWeb は著作権を無視しています。著作権なんて関係ないですよ。


[06:48]コンテンツ

UbuWeb が載せている昔の作品は、歴史的にも文化的にも価値があります。しかし金銭的な価値があるとは思えません。私はマイナーなレーベルの作品が好きなんです。だがそのような作品の発表には費用がかかります。私はマイナーレーベルの作品をサポートしたいので、そうした作品を発見したら UbuWeb で紹介します。だが人が作品を発表するのはお金が目的ではありません。音響詩じゃもうかりませんから。UbuWeb が載せている作品は風変わりで定義もあいまいです。しかし作品にとって最適な場を提供したいのです。利益が目的ではそれは無理でしょう。


[07:55]著作権

怖くないわけじゃありませんが、私は著作権について 17 年以上も学んできました。だから著作権の扱いについては十分に理解しています。やろうと思えば先手を打つこともできます。著作権について誰かと交渉をすることもあります。だが相手を打ちのめすために著作権を利用する例も多い。ほとんど言いがかりですよ。こんなことがありました。あるニューヨークの著作権エージェントからDMCA著作権法に違反していると言われたのです。対象はウィリアム・バロウズで、長い作品リストがついてました。“公開中の作品は真偽が疑わしい”と締めくくられ、責任者の署名もありました。彼らはバロウズの名を UbuWeb で検索してバロウズ関連のすべてを調べました。彼の名が論文で引用されても著作権が生じるのですか?モーマスもバロウズの名を曲名に使っています。UbuWeb には彼の曲もアップされ


ていますが。もちろん著作権はモーマスにあります。バカげていますよ。とんでもない著作権請求です。だから返事を送りました。“貴社の著作権申し立ては間違いです。バロウズの名を検索して得たような結果すべてに著作権は主張できません。法的に貴社の要求は偽証行為です。貴社を偽証罪で訴えることもできます。”とね。でも こう書き足しました。“本当に著作権がある場合は話し合いますが、もう少し頭を冷やしてください。”するとインターンの学生から返事が届きました。自分は依頼を受けただけだと言い訳していましたよ。相手の立場は理解できます。そこでもう一度“きちんとやってください”と頼みました。すると削除請求の対象はかなり少なくなりました。それでも多くはバロウズに著作権はありませんでした。著作権者が不明になっていたのです。なぜなら作品を出版する場合、著作権はアーティストではなく出版者に属することが多いので、わからなくなることがあります。最終的に彼らに依頼しました。バロウズの遺産管理人に連絡してくださいとね。ジェームス・グラウアーホルツです。私はグラウアーホルツに頼みました。バロウズの詩は自由を求めていますと。依頼の手紙にはバロウズの詩を引用しました。「裸のランチ」の海賊版を作るつもりはないことや、手を加えるつもりがないことを伝えました。でもバロウズのカットアップ技法は?美術学校でも大学院でも教えている手法です。これは著作権がないのに利用されてるいい例です。その後も多少の意見交換をしてバロウズに関しては問題がなくなりました。すべて解決しました。


[11:57]オプトアウト・システム

コンテンツは絶えず削除されました。メールで公開停止を求められました。私は UbuWebが予算ゼロで運営していると説明しました。利益は追及していません。これは有益なサイトだと説得を試みました。それでも公開を望まない場合は削除しました。オプトアウト・システムです。私は相手を尊重します。だからアーカイヴの状況は不安定です。でもそれも悪くないですね。


[12:38]許諾カルチャー

著作権に敏感になるのは理解できます。事前確認を求める人もいますが、それでは UbuWebは運営不可能です。契約の作成や弁護士が必要になりますから、例えばローリング・ストーンズの曲を映像のBGMとして使用していたら?使用料を支払う必要があります。でも私には支払うべきお金なんてありません。正式な手続きで許可をもらい UbuWeb を運営するなら、何百万ユーロもかかります。私はお金を使わず UbuWeb を開設しました。できるものなら掲載許可を得たいと思っています。それが正しい方法ですから。でもそれをしたらアーカイヴは無理です。


――アーティスト自身が作品について削除を求めてきたことは?


ほとんどありません。削除を申請してくるのは遺産管理人や企業です。アーティストの周囲 にいる人です。アーティストはほとんど何も言ってきません。彼らの考えはわかりませんが、こんな例もあります。ジャン・デュビュフェの具体音楽が UbuWeb にあります。優れた実験 音楽です。すばらしい音楽なので人は彼を作曲家だと認識します。でも後になって画家だっ たと気づく。これはすごいことですよ。デュビュフェの絵は何百万ドルもします。もちろん 彼の絵のTシャツを作るなら許可が必要です。しかし彼の音楽は違います。遺産管理人もそ の価値を正しく把握していません。実は私も同様の体験をしました。本を出版する前にアン ディ・ウォーホル財団に連絡しました。モメ事は避けたいですからね。私は彼のインタビュ ーを本にしたかったのです。財団に著作権があるのかもわかりませんでした。ところが返事 は“彼の発言など勝手に使え”でした。財団は偽作に対応するだけで精一杯だったのです。“イ ンタビューなんて好きにしろ”と言われました。でも、もしデュビュフェに尋ねることがで きたら、音楽も絵画も同じ価値があると答えるに違いありません。前衛芸術の一種の再評価 です。この話は実にいい例ですよ。彼は画家であると同時に作曲家でもあるのです。これは UbuWeb に起きた興味深い出来事です。他にも UbuWeb には利点があります。私はデュビ ュフェにも、その歴史にも関心があります。しかし UbuWeb を閲覧する若者は歴史なんて 知りません。彼らはダンス音楽を作るのです。“このサイトにはユニークな音楽があるぞ”“し かも自由に使える”彼らはサンパウロの舞台で、ビートに合わせてブルース・ナウマンを使 う。このようなアーカイヴの利用はすばらしいことです。


[16:48]インフラストラクチャー

自分でHTMLを書き込みサイトを作りました。今は BBEdit を使用してサイトを編集しています。


――検索機能は?


検索エンジンはフリーウェアを使っています。自分では無理ですね UbuWeb をデータベースに組み込みたいと各方面から何度も誘われました。このままで十分だと断っています。もし劣悪なデータベースでサイトが操作不能になったら?データベースの管理者が辞めることも珍しくありません。旧式で単純な構造だから UbuWeb は機能しているのです。サイトを開設した当初から何も変えていません。機能が旧式だからうまくいっているのです。


[17:54]検索エンジン

Google からは UbuWeb を削除しました。その理由は Google アラートを設定する人が多い からです。エージェントや遺産管理人がこの機能を利用しています。彼らは誤解しています。私が何かを販売していると思い、多くの問い合わせがありました。問い合わせへの対応にあ まりにも時間をとられるので、Google はやめました。



[18:37]著作権の手続き

私が映画をサイトで配信した途端、映画製作者たちが怒り出しました。FrameWorks とモメたことがあります。前衛芸術映画のデータベースで、登録者へメール配信を行っているサイトです。数年前に UbuWeb がハッキングされた時 FrameWorks は“敵が消えた”と大喜びでした。でも UbuWeb は復旧しました。そこで FrameWorks 宛てに公開状をアップしました。 “UbuWeb は敵ではなく味方です。あなたの仕事を無償で宣伝してますから。決してライバルではありません。ところでこの度は絶好の機会でしたね。UbuWeb がダウンすれば代わりを作れるのですから。あなたたちはマテリアルも知識も豊富にある。さあ、私たちと同じことをすればいい。応援します。”誰からも返信はなく批判も削除されました。誰も何もしません。苦情を申し立てるのは当然と思っている。私は詩人だから映画のことはわかりませ

ん。彼らは熟知しているのに何もしようとしません。文句を言うだけの方が簡単ですからね。誰も手を出さないところに優れたものが生まれます。UbuWeb は成功しているし今後も続 けます。


[20:32](不)安定なアーカイヴ

何かのプロジェクトに 17 年も毎日取り組めば価値あるものができます。ウェブサイトは、はかないもので UbuWeb も同様です。こんなに続くなんて驚きです。だが明日には消えるかも。訴えられるかもしれないし、飽きてやめるかもしれません。続ける義務もありません。好きな作品を見つけたらダウンロードすべきです。サイトに残っている保証はない。自分でアーカイヴしないと。


――クラウドは? クラウドは嫌いだ。


字幕制作:東京都写真美術館 第9回恵比寿映像祭

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